司法改革の方向

 新司法試験合格者数について、久保利英明弁護士(日比谷パーク法律事務所代表パートナー)の見解(10/22記事)になるほどと考えさせられたが、今度は、司法修習生への給費制から貸与制への移行をめぐって論議がされている.自民党の方針決定により、どうやら本年度から貸与制になりそうである。これも判断のわかれる問題であろう.(もっとも、直接関わりのない人にとってはどうでもよい事柄ではある。)
   http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/quiz/quizvotes.php?poll_id=5996&qp=1&typeFlag=1

 司法制度全般の改革について、本年2月のわがHPの記載を再録して、考えを整理したい.

◆弁護士小林正啓(まさひろ)氏の『こんな日弁連に誰がした?』(平凡社新書)は、改革された現行司法制度の中、法科大学院制度および年合格者3000人目標という今日明らかに壁にぶつかっている問題を、日弁連(日本弁護士連合会)がなぜ予測・対応できなかったのかについて、戦後の活動の歴史を追跡しながら解明している.「法の支配」の担い手として正義の秩序と人権を守るべき弁護士の組織が、戦後のイデオロギー対立と内部の権力抗争、そして裁判所・検察庁との確執に明け暮れ、個々の弁護士の判断を曇らせたというのが真相のようである.
 生活できる収益を保証される「経済的自立」と、国家権力からの自立を実現するための「弁護士自治」を保持するという弁護士組織の原則からは、弁護士人口はむやみに増やさない、弁護士養成は国家の一律の実務教育を必要とする(資格としての権威が生まれる)、との見解になるはずだが、ここに「法曹一元」の甘いエサをチラつかされて、組織は、司法制度改革審議会の法科大学院創設および年3000人合格目標の案を呑んでしまったのだ。しかし「法曹一元」はまったく審議されていなかったらしい。「法曹一元」とは、弁護士経歴のある者から裁判官を選任するというシステム.日本では、司法試験合格者のなかから(可能性としては)一生勤められる裁判官を選任するキャリアシステムをとっているが、英米では法曹一元だそうだ.
 この年合格者3000人実現を根拠づける数字として、「フランス並みの弁護士人口」の確保というのが95年の法曹養成制度等改革協議会以来主張されてきた。しかし国によって弁護士の業務は異なり、単純な対人口比でも実情は比較できないのである.根拠というよりは、説得の方便として言われてきたのだろう.また法科大学院制度は、英米ロースクール制度を模範としたものだが、不文法の英米法制度とは異なる成文法のわが国で導入するには、十分な検討が必要であったとのことだ.しかも日本の大学制度は、「偏差値カースト制度」になっているので、人員についてもそれぞれにふさわしい数を求めるところから、合格率75%などはじめから無理な計画であった.若者や一部の職業人に大いなる幻想を与えて時間・カネを奪った関係者らの責任は重いというべきだろう.
 弁護士が本来の役割を果たすには、行政による多くの規制あるいは「法律上の権限逸脱」、そして紛争解決手続きの煩雑さが障害となっている.これらの改正が必要だろう.
『お断りしておくが、筆者は、訴訟を起こしやすくする社会がよい社会だ、と主張しているわけではない.筆者が主張しているのは、「法の支配」といって弁護士を大幅に増やしながら、「法の支配」を実現するための武器を弁護士に与えないという、国家政策の一貫性のなさである。弁護士の数を増やしただけで、「法の支配」が実現するという考え方は、弁護士を増やせば必ず人権が守られるという考えと同様、とても浅はかだと思う.』(同書p.236)(2010年2/25記)

こんな日弁連に誰がした? (平凡社新書)

こんな日弁連に誰がした? (平凡社新書)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のサンゴバナ(Justica carnea)。小川匡夫氏(全日写連)撮影.⦆