宝塚出身女優

 デュランタ宝塚の写真(下)を眺めていたら、宝塚公演の『エリザベート』が観たくなってしまったが、残念ながら未見である.宝塚関係のmixiのかつての日記記事から再録しておこう。なお月船さららさんの舞台は、その後『妹と油揚』『痴人の愛』(metro公演)の二つを観劇している.



1)昨年(2006年)の11月には、東京江東区の倉庫改造悪場所「ベニサン・ピット」で、江戸川乱歩原作、三島由紀夫作、デヴィッド・ルヴォー演出の『黒蜥蜴』を観劇、宝塚出身の麻実れいさんの黒蜥蜴に魅せられてしまったが、今年は、毬谷友子さん、月船さららさんを間近に観られて感激。毬谷友子さんの演技力のたしかさと、月船さららさんのさすがは男役だったと興奮する、官能的な身体の存在感にそれぞれ感動した。水曜日のマチネー公演のため、予約で最前列の席がとれ、劇の進行以前に、役者さんそのものの身体を感じられたのは嬉しい限りのこと。鰐淵晴子さん(ピラール)も可愛らしい。
 かの演出家鈴木(忠志)メソッドにおいては、「演技のもっとも重要な要素、演技とは身体感覚の多様性を表現するものであり、俳優は他人の眼前で、自分の日常生活で感じているものとは違った、可能性として存在するさまざまな身体感覚を、遊びとして再現してみせる」という視点が前提なのである。この芝居、ヤスミナ・レザ作、天願大介演出『スペインの芝居』は、ことばの交錯に主眼があり、むしろ大仰な動作は抑えられているが、身体の存在感が薄くてよいわけがない。
 各人別々にモノローグする俳優・女優達が「スペインの芝居」という芝居を演ずるリハーサルという設定で、しかも毬谷友子さん(アウレリア)、月船さららさん(ヌリア)は、その芝居のなかで姉妹で二人とも女優なのである。アウレリアがさらにもうひとつの芝居を稽古しているという、多層的な構造になっている。解散した劇団「ク・ナウカ」が昨年、下北沢の「ザ・スズナリ」で、ピランデルロの『作者を探す六人の登場人物』を意表をつくような形で公演したのは記憶に新しいが、現代演劇も壁にぶつかっているのだろうか。このところ小説を書くことそのことを〈物語〉にしている小説が目につくことと、無縁の動向ではあるまい。
 芝居のなかの人物たちが何回かチェーホフの芝居のことを羨望するように語る。あったはずの「物語」の不在あるいは喪失の痛みを耐えるチェーホフの芝居の登場人物には、まだ「物語喪失」の「物語」があったということなのか。登場人物たちによって語られることばは、「物語」を生むことなく交錯するが、エドワード・オルビー(Edward Albee)の『バージニアウルフなんかこわくない』ほどの、愛をめぐることばの過激さはない。激しいものを抑えているという感じで、劇作家の永井愛さんがtptのサイト上で「この芝居が楽しめたら、あなたもオトナ…こんなふうに囁かれ、ウィンクされてしまったような気になる芝居です」と評しているのもうなずける。ある味わいがあるのである。この女性作家の作品は世界中で上演されているようだ。
 物語中の俳優たちがもうひとつの物語を演じるしかけは、映画でもあった。カレル・ライス監督、メリル・ストリープ主演の『フランス軍中尉の女』。もつれた愛の関係の二人が、劇中劇でビクトリア朝時代のもつれた愛の物語を演じるというお話で、感動した作品だ。しかしここにはハラハラさせる「物語」がちゃんと成立している。この芝居とは違う。
 受付で毬谷友子さんのCDを購入した。彼女の歌唱力は、歌劇団設立70周年記念式典において「すみれの花咲く頃」をソロで歌ったことから推して、おそらく宝塚出身者のなかでもトップ級なのだろう。サイン入りなので、少し撫で回してから聴いてみたい。 (2007年10/28記)



2)会社派遣でウィーンの大学に建築の勉強で留学中の甥N君のところを、先日わが兄夫婦が訪問.1週間ほど滞在してきた.ぜひにと頼んでおいた、ウィーン・アン・デア・ウィーン劇場で公演の『Elisabeth』のDVDを買ってきてもらった.昨日ついに入手.おまけにウィーンでももっとも高級だそうなチョコレートつきであった。日本でも「宝塚アン」などで発売されているが、高価だし、それもスタンダード盤だ。それにどこのamazonでも扱っていない.買ってきてもらったのは、むこうでもすでに在庫乏しいらしい、2枚組の「BONUS DVD」盤だ。
 http://www.takarazuka-an.co.jp/product/IMPORT-6682527.html

 この原作をもとにした宝塚もしくは東宝の公演およびDVDは観ていない.かつて杜けあきさまの最終年東京公演を、関係者のあるツテがあって一路真輝さま後援会を通して、最前列で(連れ合い以外は隣はみな宝塚の方だった)鑑賞したことがあるのだが。宝塚公演では、男役が主役だから黄泉の帝王トートが主役となる。ウィーン版原作ミュージカルでは、むろんエリザベートが主役のはずだ.わが家にはPAL盤DVDも観られるマルチプレーヤーがあるので、あとでチョコレートなどかじりながらじっくり鑑賞したいもの.(2008年04/26記)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のデュランタ宝塚(Duranta erecta Takarazuka')。小川匡夫氏(全日写連)撮影.⦆
  なお「デュランタ宝塚」のnamingは、ジッポー社によるもので、すみれ色のデュランタは、すみれ=宝塚ということで、デュランタ宝塚.
  http://www.hana-zippo.co.jp/duranta.htm