ピーター・ブルックの『BATTLEFIELD(バトルフィールド)』観劇



 一昨日11/26(木)は、すでにクリスマスモードの新国立劇場・中劇場で、ピーター・ブルックの最新作『BATTLEFIELDバトルフィールド)』を観劇した。1988年銀座セゾン劇場で上演された、『The Mahabharata(マハーバーラタ)』の後日譚という位置づけの舞台であろう。バーラタ国における5人の兄弟がいるパンダヴァ家(軍)と、盲目のドリターラシュトラ王の100人の王子がいるカウラヴァ家(軍)との死闘が繰り広げられ、パンダヴァ軍が勝利するが、相互の殺戮によって、戦場となった大地は夥しい屍体で覆われることとなった。勝利したパンダヴァ家のユディシュティラは、「この勝利は敗北である」とし、悔恨と罪悪感に苛まれている。さらに、母クンティから殺害した敵将カルナが、母の隠し子であり、彼とは兄弟であることを告げられ、大いなる衝撃を受ける。まさに「なにもない空間(ブルック)」の舞台で、それぞれの悔恨と救済の行為が静かに展開するのである。復讐の連鎖が断ち切れなくなってきた現代世界に対する、この演出家の絶望と希望が垣間見れる。さる方が菩提樹の木の下で瞑想する少年修行者の口の中に吸い込まれると、その体内にはこの宇宙とまったく同じ宇宙空間が存在していたと語られるエピソードは、感動的であった。とすれば、この世界はまた別のあり方で存在することも可能なのだ。そんな感じを一瞬思ったことであった。
 出演は、キャロル・カメレーラ、ジャレッド・マクニール、エリ・ザラムンバ、ショーン・オカラハンの4人で、色の異なるショールを使い分けて、さまざまなキャラクターを演じている。パーカッション演奏は、何と1988年の『The Mahabharata(マハーバーラタ)』と同じ土取(つちとり)利行、舞台終幕での演奏はみごとであった。
 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20130603/1370248538(「(旧)銀座セゾン劇場の閉館:2013年6/3」)

 単行本でもある公演パンフレット「PETER BROOKー最新作『バトルフィールド』までの軌跡ー」(PARCO刊)では、「『マハーバーラタ』に登場する世界最終兵器パシュパタが、すでにフクシマにおいて用いられてしまった」と、観念・思想を弄んでいるに過ぎない四方田犬彦氏の「新たなる『マハーバーラタ』」などよりも、演出家佐藤信氏の談話記録「演劇の概念を自ら破壊し、再定義し続ける演出家」が面白い。
……演劇行為を理屈では捉えていない。しかも、それがルーティンに嵌まらない。そこのところをすごく開拓していく。演劇を随分拡張してきた人だし、あまりにもそれが上手にやられるためにプレゼンテーションのための演出技術みたいなところで捉えられがちなんだけど、実はそんなことはあんまり考えてないというか(笑)、結果的にそうなっている。
 ただ、ブルックの意図とは反して、失敗作もあると思うんです。『マハーバーラタ』も、壮大な失敗作だと思うし、僕にとっては面白くない。圧倒はされるけど、もっと突っ込んでほしかった。例えば、バカバカしいし破綻はあるけれど膨らみのあるアリアーヌ・ムヌーシュキンみたいに(笑)、ある種のカオス状態とかノイジーなものを劇場の中に持ち込んできて苦悩するみたいなものに比べると、ブルックはかなり落ち着いている。 
 面白くするために、最後に綺麗にまとめてある。インドの原作の持っている混沌とした猥雑な活力という意味では、インドネシアのワヤン・オランの方がやはり面白い。それがなくなってしまっていると僕は思うんですね。多少アジア人としてのひが目もあるのかもしれないけど…。……(p.10)





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