「青」をめぐって


 昨年初詣に訪れた東京亀戸天神社の境内の池に、カワセミアオサギがいた。感動した。見物の参詣客で、たまたまか正しくアオサギの名を呼んでいる人はいなかった。羽色を見れば当然であろう。灰色である。
 古代日本においては、黒から白に至るそれこそ「グレー・ゾーン」の色が「青」とされていたのであって、灰色のサギが青鷺と呼ばれたわけである。英語の「Grey Heron」が世界の標準(学名:Ardea cinerea)で、中国語「蒼鷺」・オランダ語「Blauwe Reiger」=青サギのみが例外ということになる。
  http://www.birdsofbritain.co.uk/bird-guide/grey-heron.asp(「Birds of Britain」) 
  http://www.grey-heron.net/forum/08-name/(「アオサギを議論するぺージ」)
(上記のサイトから多くを学べるが、西洋古典学者T氏によれば、文献史的考察には、誤読・誤解があるらしい。)
皐月賞」(3連複的中)を勝ったゴールドシップは、芦毛馬であるが、いずれはみごとな白馬となる。つまりもともとの白馬というのは(稀な例外はあるのだろうが)ない。奈良・平安時代から江戸時代末までは宮中で行われていたという、「白馬の節会」は、「あおうまのせちえ」と呼び、醍醐天皇の御代から白馬を使って邪気を追い払ったとされる。サラブレッドとモンゴル伝来の日本在来馬とを同じく考えてよいかどうかは保留するとして、芦毛=葦毛(葦の芽生えの時の青白の色の毛)の馬を使っていたとすれば、「あおうまのせちえ」の呼称は納得できる。醍醐天皇の御代では、白馬になった馬を引いたと考えればいいわけだ。これは競馬ファンとしての想像で、学問的には諸説あるらしい。

 芦毛の軍馬で思い浮かべるのは、わが贔屓の女優マルーシュカ・デートメルス(Maruschka Detmers)のデビュー作品(1985年)、ドイツのTVドラマ『VIA MALA(マーラ街道)』の一場面。製材所一家の美しい末娘シルヴィ(マルーシュカ・デートメルス)を愛する青年士官が乗っていたのが、芦毛の馬であった。音楽(エンニオ・モルコーネ)とともに忘れられないシーンである。「amazon.de」で購入した2枚組DVDはレアだろう。
 チベット仏教学の正木晃氏は、「『風の谷のナウシカ』を読み解く」との副題をつけた『はじめての宗教学』(春秋社)で、ナウシカの服の青色が象徴するところに注目している。本来青い不動明王およびシヴァ神に触れて、「じつは、青、とりわけ青黒は、仏教をはじめとするインド型宗教の図像学では、死や憎悪や怒りを象徴する役割を演じているのだ」としている。
……いちばん大切な神やホトケに、いちばん忌まわしい色を配する。こんな発想は、キリスト教では生まれてこなかった。ところがインドでは、いちばん忌まわしい色を、いちばん大切な神やホトケにあえて配して崇める、という逆転の構図を用意した。こうした思考の背景には、人間性の最も忌まわしい闇の部分にこそ、じつは人間を神やホトケに近づけるエネルギーが潜在しているのだから、最も忌まわしい闇の部分を直視せずに、より高度な段階には到達できない、というようなインド特有の智恵があった。……
 http://yosukenaito.blog40.fc2.com/blog-entry-2531.html(「切手:風の谷のモデル」)

はじめての宗教学: 『風の谷のナウシカ』を読み解く〔新装増補版〕

はじめての宗教学: 『風の谷のナウシカ』を読み解く〔新装増補版〕

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町に咲く、上ルピナス、下オダマキ苧環)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆