二つのフィギュア




 最近WOWOWで、『ハイビジョンリマスター版・ウルトラQ』を放映していた。いくつか観たが、面白かった。新聞社カメラマン江戸川由利子役の桜井浩子さんも初々しくなつかしい。『ウルトラマン』のフジ・アキコ隊員役はその後だ。サイン入りの額入り写真を改めて眺めた。
ウルトラセブン』で使用されたセブンのマスクが、モロボシ・ダン役の俳優森次晃嗣さん経営の喫茶店ジョリーシャポー」から盗まれていたとのことである。星人の仕業であろうか。
 アンヌ隊員=ひし美ゆり子さんのフィギュア「YURIKO MEMORIAL 1972」(原型製作・寒河江弘:販売・海洋堂)を所有している。今のところ星人の略奪は免れている。もうひとつの佐伯日菜子さんのフィギュア、「ケンタッキーの日菜子」パイロットスーツフィギュア(造型・安藤賢司:監修・押井守竹田団吾)とともに、わがお気に入りである。
 押井守原作・総監修のDVD『真・女立喰師列伝』(製作・ジェネオン エンタテインメント)については、かつてのHPの記事中、ひし美ゆり子さん主演の第1話「金魚姫—鼈甲飴の有理」のみ再録しておいたが、今回は残りのエピソードのところを再録しておく。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20100725/1280028822(「調布はアンヌの町でもある」)
◆もともと『立喰師列伝』という作品があるのだそうだ.これは実写の作品ではなく、デジタル写真を使ってスーパーライヴメーションという技法で創造したアニメ作品らしい.「ケツネコロッケのお銀(兵藤まこ)」以外は、みな男性の立喰師(弁舌やパフォーマンスで飲食代金を踏み倒すことを生業としている仕事人とのこと)だ。「ケツネコロッケのお銀」だけの作品もあるそうで、この作品でも、オープニングに「ケツネコロッケのお銀(兵藤まこ)」が、一瞬だけ登場している.つまり2作品とも、女性の立喰師を主人公にしたスピンオフ作品というわけだ.男だと店長(神山健治)との論戦もしくは対決となってしまい、そこが興味を引くかとも思われるが、断然女性の立喰師のほうが面白い.美人の立喰師は案外やすやすと、取引・売買のルールを超えてしまうのだ.なぜなら、「美」とは「権力」だからである。
 それぞれのエピソードは独立していて、物語の場所も時代も異なっているものの、アメリカ文化の侵食という、戦後日本の歴史を辿って構成されていることは容易にわかるところである.一級のエンタテインメントの作品であることはたしかだが、作者は意外に軽くないメッセージをしのばせているのだ。
 かつての『立喰師列伝』についての「読売新聞」依田謙一さんのインタビューに応えて、

依田:巷の評価と違い、とても「真面目な作品」ではありませんか。
押井:そうだよ。製作発表の時から真面目な映画だって言い続けているんだけどね。大体、僕が冗談を言う時は真面目なんだよ。むしろ、深刻な顔している時は気をつけたほうがいい。
依田:でも、なかなかそう思われていないようで。
押井:冗談のふりして「全部ウソだぜ」となって初めて言えることがある。これはエンターテイメントをやる上での信念。僕のことをエンターテイメントの人間だと思っていない人もいるけどね(笑)。

 第2話「荒野の弐挺拳銃—バーボンのミキ」の舞台は、アメリカのような日本のような架空の街で、幻のバーボンを飲むために来たミキ(水野美紀)が、得意の早撃ちで独裁者の保安官を倒すエピソード。これはまるで宝塚の「キッチュな潔さ(稲増龍夫)」の楽しさあふれる物語だ.第3話「Dandelion—学食のマブ」は、ファミレスが舞台で、マブ(安藤麻吹)が料金を踏み倒すのは、アメリカンコーヒーである。第4話「草間のささやき—氷苺の玖実」の「さとうきび畑」には、「昔海のむこうから/いくさがやってきた/夏の陽ざしのなかで(寺島尚彦作詞・作曲)」だし、第5話「歌謡の天使—クレープのマミ」の舞台となっている原宿は、アメリカ人の生活の便宜のために発展した次第を、マミ(ゆうこりん小倉優子)の口で語らせているのだ.第6話「ASSAULT GIRL—ケンタッキーの日菜子」の廃墟に立っていたのは、『猿の惑星』の「ニューヨークの自由の女神像」でもウルトラセブンでもなく、巨大なケンタッキーフライドチキンのおじさんの像なのであった.

 第6話「ASSAULT GIRL」の舞台は、21世紀の廃墟となった地球である.かつて「ケンタッキーの日菜子」と呼ばれた女立喰師であった、女大佐(カーネル)の佐伯日菜子はSF的存在感十分でとてもよい。ヨーロッパ中世的甲冑に身を固めて地上に降り立つが、ヤン・ファーブル風でもあり、『風の谷のナウシカ』のトルメキア王女クシャナ風でもある.第1話には、『風の谷のナウシカ』に関わっている鈴木敏夫さんも友情出演しているのだ.最後できちんと押井守の世界観が出ているわけだ.みごとな終わらせ方であった.佐伯日菜子フィギュアについては、黒井ミサのはけっこう収集しているが、今回の「ケンタッキーの日菜子」のフィギュアのできばえは格別である.(2008年6/22記)
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のデュランタ宝塚。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆